さくらちゃんとスイスチャードと便秘解消。

きらきらと朝の光が窓辺に差し込むある日のことです。二歳になる小さな女の子、さくらちゃんはいつもなら元気に遊ぶ時間なのに、その日はちょっと元気がありませんでした。おなかがパンパンで、いつもより機嫌が悪く、食事の時間にも笑顔が少なかったのです。お母さんのなおこさんは心配で、やさしく抱きしめながらさくらちゃんのおなかをさすりました。

「さくら、どうしたの?おなか、痛いの?」
さくらはうーんと唇を噛んで、かすかに首を振りました。言葉はまだ短くて不安げに小さな声で「いたい…」とだけ言いました。なおこさんは便秘の兆候だとすぐに察しました。二歳児の便秘はよくあることだけれど、見るたびに胸が締めつけられるような不安が湧きます。

病院に行くべきか、いつも食べているものを変えてみるべきか、なおこさんは考えました。祖母のゆかさんに相談すると、ゆかさんは台所の戸棚を開けて、古い家の知恵を話してくれました。「まずはあったかいものを少し食べさせて、野菜で調子を整えるのもいいわよ。スイスチャードがあれば柔らかくして食べさせるといいって聞いたことがあるの」と言いました。

スイスチャード。見た目は深い緑に鮮やかな茎が特徴の葉物です。なおこさんは近くの市場で新鮮なスイスチャードを見つけ、家に持ち帰りました。葉は柔らかく、茎はほんのり赤や黄色のラインが入っていて、台所の明かりの下で光っていました。

「今日はね、ママが特別なおやつを作るよ。さくらも手伝ってくれる?」
さくらは目を輝かせて小さな手を差し出しました。おやつ、料理、そして母の笑顔。それだけで少し安心するようでした。

なおこさんはスイスチャードを丁寧に洗い、葉は細かく刻み、茎は小さく切りました。卵、小麦粉、水を混ぜて、ちょっぴり塩とごま油をたらし、チジミの生地を作ります。刻んだスイスチャードが生地のところどころに緑の斑点を作り、見た目にも心が弾むものでした。

フライパンに油を熱すると、ジュッという小さな音がして、熱気にほんのりと野菜の香りが混ざりました。なおこさんは生地を薄く広げ、ふちがカリッと色づくまで丁寧に焼きました。できあがったチジミは黄金色の縁と、緑の葉が溶け込んだしっとりとした中身をしていて、見るだけで食欲が湧いてきます。

「はい、さくら。小さな一口だけね。ママと同じくらいのサイズだよ」
さくらはうれしそうに受け取り、しっかりと噛みしめました。チジミは外がカリッ、中がふんわり。スイスチャードのほのかな苦味と甘みが卵と粉に溶け込み、幼い舌にも優しい味に仕上がっていました。さくらは目をぱちくりさせながら、ふた口、みくちほど食べました。

その夜、なおこさんは安心してさくらを寝かしつけましたが、心のどこかに小さな不安が残りました。食べさせただけで本当に良くなるのだろうか。けれども、夜が明けて朝が来ると、さくらはいつものようにお布団の中で手足をばたつかせながら目を覚ましました。なおこさんはそっと起きて台所へ行き、コーヒーを淹れ、ふとリビングに戻ると、さくらがにこにこと座っているのに気づきました。

「ママ、おはよう。すっきりしたよ」
小さな声に驚いてなおこさんはさくらを抱きしめると、確かにさっきまでの張りのあるおなかではなく、穏やかな柔らかさがありました。さくらは嬉しそうに跳ね、床に寝転んで得意げに笑いました。なおこさんは胸が熱くなりました。あの夜のスイスチャードチジミが、子どもの不快を和らげてくれたのかもしれない、と考えずにはいられませんでした。

その日、なおこさんとゆかさんは朝食を囲みながら話し合いました。ゆかさんは柔らかく言いました。「食べ物は体の声を聞く手助けになるの。もちろん何でも万能ではないけれど、旬の野菜や優しい味付けが小さな体には染みることもあるのよ」 なおこさんはうなずきながら、これからはさくらの食事にもう少し気を配ろうと心に決めました。

それからというもの、スイスチャードはその家の小さな秘密の一品になりました。あの日のチジミの記憶は、さくらにとっては「ママが作ってくれた魔法のおやつ」のようでした。嫌がることなく野菜を口にするようになり、食卓には彩り豊かな葉物が増えていきました。なおこさんはさくらと一緒に市場へ行き、季節の野菜を選び、どんな風に食べると楽しいかを話し合いました。

ある日、保育園でさくらが友だちに自慢げに話していました。「さくらね、ママがあおいののおやつをつくってくれたの。ぺろっとたべたら、おなかがにこにこになったの!」 友だちの目はきらきらと輝き、先生も笑顔で彼女を見守っていました。なおこさんはそんな話を聞いて、胸が温かくなりました。小さな成功体験がさくらの自信になり、食べ物に対する親しみを育てているのだと感じました。

もちろん、すべてがスイスチャードだけの力で解決したわけではありません。なおこさんはその後も、さくらの排便習慣を見守り、十分な水分とバランスの取れた食事、遊びながらの運動も大切にしました。ゆかさんから教わった家族の知恵と、医師からのアドバイスをうまく取り入れながら、少しずつ日常は落ち着いていきました。

季節は巡り、春の風が窓からそっと入るある朝、さくらはキッチンの椅子に座りながらお母さんに言いました。「ママ、あのね、またあおいのおやつつくって?」 なおこさんは笑いながらスイスチャードを取り出しました。「いいよ、また一緒に作ろうね。今度はさくらがまぜるの手伝ってくれる?」 小さな手が嬉しそうに伸び、二人はまた台所で小さな物語をひとつ作り始めました。

この出来事は、家族にとってちいさな奇跡のように記憶されました。怖かった夜、優しい笑顔、炊ける音、そしてふわりとしたチジミの香り。さくらの一歩一歩の成長を、家族はこれからも見守っていく――そんな静かで確かな決意が、台所の窓辺で育っていったのです。

──おしまい。

〔実際にあったお話を物語風に作成しています。〕

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