便秘とスイスチャード(ふだん草/英名 Swiss chard、豪州では silverbeet)の関係を、入手できる研究・公的データをもとに整理します。要点は「スイスチャード自体に特効薬レベルの臨床試験はないが、食物繊維とマグネシウムをしっかり含む葉物として“便通を整える食事パターン”に組み込みやすい」という位置づけです。
1) 結論(先に要約)
- スイスチャードは、加熱175 gあたり食物繊維約3.7 g、マグネシウム約150 mg、カリウム約960 mg、ビタミンKが非常に多い葉物野菜です。
- 慢性便秘に対する一次介入として「食物繊維の増量」はエビデンスがあり、特に4週間以上・1日10 gを超える補給で効果が出やすいとするメタ解析があります。(PMC)
- 便秘の薬物治療のガイドライン(AGA/ACG, 2023)は、食物繊維や酸化マグネシウムなどを条件付き推奨に位置づけています。食品中のマグネシウムは薬と同等ではありませんが、「不足しがちな栄養素を食事から増やす」こと自体は妥当です。(American Gastroenterological Association, giboardreview.com)
- 低FODMAP食を実践している方でも、スイスチャード(silverbeet)は刻んだ1.5カップ=約75 gまで低FODMAPとされ、取り入れやすい野菜です。
- 注意点として、シュウ酸(オキサレート)が多い野菜に分類されます。腎結石の既往がある方は大量摂取を避け、ゆでこぼしなどでシュウ酸を減らす調理が推奨です(加熱やゆでこぼしでシュウ酸は30〜87%低下の報告)。ワルファリン服用中の方はビタミンK摂取の“量の一貫性”に留意が必要です。(stonecentrevgh.ca, PubMed)
2) なぜスイスチャードが便通サポートに「使える」のか(作用の筋道)
- 食物繊維
- 不溶性繊維は便の“かさ”を増やし、通過時間を短縮。可溶性繊維は発酵して短鎖脂肪酸をつくり、腸の運動や便性状を整えます。成人の慢性便秘で、繊維補給は排便回数や便の硬さの改善に有効というメタ解析が複数あります。(PMC)
- 日本の食事摂取基準(2025年版)でも、生活習慣病予防の観点から「一日25〜29 gの食物繊維摂取がリスク低下と関連」として目標量設定の根拠にされています(年齢・性別で具体値あり)。(厚生労働省)
- マグネシウム
- マグネシウムは腸管内で水を引き込み、便を軟化させる“浸透圧性”のはたらきを持つことで知られています。薬(酸化マグネシウム等)としての有効性は成人慢性便秘のガイドラインで条件付き推奨。食品中マグネシウムの量は薬より少ないものの、日々の不足を補う意味はあります。(American Gastroenterological Association, giboardreview.com)
- スイスチャードは加熱175 gで約150 mgのマグネシウムを含み、日常の総摂取量アップに寄与します。
- 水分・カリウム
- 繊維を増やすときは水分摂取もセットにすると効果が増すという臨床研究があり、カリウム豊富な野菜は腸の平滑筋機能にも好影響が期待できます(「水だけ増やしても効果は限定的」だが、「繊維+十分な水分」で頻度が上がった試験がある、という整理)。(PMC, AAFP)
3) どれくらい・どう食べる?
- 目安量
- まずは「副菜として1食あたり75〜100 g」を目標に。低FODMAPの観点では刻み1.5カップ(約75 g)まで低FODMAP扱いなので、IBSの方も少量から試しやすいです。
- しっかり食べる日は「ゆでて水気を切った葉茎で1カップ(約175 g)」を目安にすると、繊維約3.7 g+マグネシウム約150 mgを確保できます。
- 調理のコツ(便秘&安全面)
4) 注意したい人・相互作用
- 腎結石(特にシュウ酸カルシウム)歴がある方:スイスチャードは高シュウ酸群に分類。量に注意し、同時にカルシウム食品(例:牛乳・豆腐)を合わせる、ゆでこぼす、などの工夫を。(stonecentrevgh.ca, PubMed):熱を与えれば問題は解消されます。
- ワルファリン服用中:スイスチャードはビタミンKが非常に多く、摂取量の“急な増減”が薬効に影響し得ます。医療者と相談のうえ、摂取量を一定に保つのが原則です。(毎日、100g以上食べ続けるなどはできないと考えます。)
- 甲状腺機能・ヨウ素:一般的な飲食量で問題となるデータは乏しいですが、葉物の大量・偏った摂取は避け、いろいろな野菜を回すのが無難です(本項は一般的栄養指導の原則)。
5) エビデンスの限界と実務的な使い方
- いまのところ「スイスチャード単独が便秘を改善した」というRCT(無作為化試験)は見当たりません。根拠の主力は「食物繊維全般のメタ解析」と「マグネシウム(特に酸化マグネシウム)の薬理データ・ガイドライン」です。(PMC, American Gastroenterological Association)
- 実務的には「①総繊維量を日々積み上げる」「②水分を十分に」「③活動量も確保」「④必要に応じて医療用治療(薬)」の中で、スイスチャードを“繊維・ミネラルが取りやすい副菜”として位置づけるのが現実解です。水分だけ増やしても改善は限定的で、繊維とセットが肝心です。(AAFP)
6) かんたん実践レシピ(例)
- 下ゆでスイスチャードのごま和え:ゆでて絞った葉茎を刻み、すりごま・少量の醤油・酢で。
- ひよこ豆とスイスチャードの温サラダ:オリーブオイルでにんにくを温め、茎→葉の順に炒め、塩少々。ゆで豆を加えて和える。
- オートミール入り味噌スープに刻みスイスチャードを後入れ。
いずれも「他の繊維源と合わせる」「油を少量使う」「水分を一緒に摂る」を満たせます。繊維を増やすときはガス・張り対策として“少量から慣らす”のがおすすめです。(PMC)
参考にした主な情報源
- 栄養成分(繊維・ミネラル・ビタミンK):MyFoodData(USDAデータに基づく栄養プロファイル)と米国NIHのビタミンK解説。
- 便秘×食物繊維:成人慢性便秘に対する補給効果のメタ解析。(PMC)
- 薬物治療ガイドライン(成人慢性特発性便秘):AGA/ACG 共同ガイドライン(2023)。(American Gastroenterological Association, giboardreview.com)
- 低FODMAPでの位置づけ:Monash Universityの解説(silverbeet=スイスチャード)。
- シュウ酸・調理での低減:シュウ酸の多い食品に関する臨床リソースと、加熱での低減に関する食品化学の研究。(stonecentrevgh.ca, PubMed)
- 日本人の食物繊維目標量の根拠:日本人の食事摂取基準(2025年版)関連ページ。(厚生労働省)
必要なら、普段の食生活・体質(IBSの有無、結石歴、内服薬など)に合わせて、1週間の「便通サポート献立」を具体的に作ることもできます。

便秘改善を意識した「1週間の便通サポート献立」の例を、スイスチャードを組み込みながらご提案します。
(前提:成人、特別な持病や食事制限がない方を想定。腎結石やワルファリン服用の方は別途調整が必要です。)
1週間の便通サポート献立(例)
1日目
- 朝:オートミール粥(オートミール+豆乳+バナナ+すりごま)
- 昼:玄米ごはん、焼き鮭、スイスチャードとしめじのおひたし、味噌汁
- 夜:鶏むね肉とスイスチャード炒め、ひよこ豆サラダ、わかめスープ
2日目
- 朝:ヨーグルト+キウイ+オートブラン
- 昼:全粒パンのサンド(鶏ハム+レタス+スイスチャード葉)、ミネストローネ
- 夜:サバの塩焼き、スイスチャードと人参のごま和え、冷や奴、玄米
3日目
- 朝:豆乳スムージー(バナナ+ほうれん草+スイスチャード少量+きな粉)
- 昼:雑穀ごはん、豚汁(根菜+こんにゃく)、スイスチャードのナムル
- 夜:鶏団子鍋(白菜・豆腐・きのこ・スイスチャードを後入れ)
4日目
- 朝:納豆ごはん+焼き海苔、みそ汁(スイスチャード入り)
- 昼:ツナと豆のトマト煮込み、全粒バゲット
- 夜:サンマ塩焼き、大根おろし、スイスチャードとえのきの胡麻和え、雑穀ごはん
5日目
- 朝:ヨーグルト+ブルーベリー+オート麦
- 昼:玄米おにぎり、卵焼き、スイスチャードとひじきの煮物
- 夜:鶏むね肉とブロッコリーの炒め物、スイスチャードの味噌汁、冷やしトマト
6日目
- 朝:オートミール+豆乳+りんご+シナモン
- 昼:スイスチャード入りペンネアラビアータ、サラダ(豆+葉野菜)
- 夜:イワシつみれ汁、雑穀ごはん、スイスチャードの白和え
7日目
- 朝:納豆+玄米、味噌汁(わかめ+スイスチャード)
- 昼:スイスチャードと豆腐の炒め煮、根菜の煮物
- 夜:鮭のちゃんちゃん焼き(野菜にスイスチャード追加)、きのこ汁
ポイント
- スイスチャードは「おひたし」「炒め物」「スープ・味噌汁後入れ」で活用。
- 繊維は「スイスチャード+オート麦+豆+きのこ+海藻」で合計25g/日を目安。
- 水分は1.5~2Lをこまめに。
- 運動(軽いウォーキングなど)も腸の動きにプラス。